まだ、お笑い芸人がYouTubeに進出するのが珍しかった2016年に、靴磨きの動画に特化したYouTubeチャンネル「靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』」を開設。
無名のお笑い芸人ながらも、親しみやすい語り口と、論理的かつ分かりやすい解説で、10万を超える再生回数の動画を連発。
その勢いに乗じて、1年後には宅飲みにおけるツマミとビールの最強の組み合わせを追求するべく新たなYouTubeチャンネル「おっくんの宅飲みグルメ」をスタート。
誰もが手軽に作れる宅飲みレシピに加えて、有名ラーメン店の再現レシピや、激辛・大量にんにく・脂ギトギトなど、一般家庭ではやらないようなエンターテインメント性の高いレシピ動画が話題となり、チャンネル総再生回数は5000万を突破。
2020年6月の時点でチャンネル登録者数 25万人を誇る料理系YouTuberのおっくん。
2020年5月には、動画で好評だったレシピに未公開レシピを含めた全78品を掲載した初のレシピ本『かんたん!うまい!おっくんの史上最強の宅飲みご飯』(KADOKAWA)を出版した。
現在は所属していた吉本興業のYouTube部門「OmO(オモ)」を退社して、自らの会社を立ち上げ、YouTuberとして精力的に活動する傍ら、2020年7月19日に自身がプロデュースした靴磨き店「SHOEBOYS」を都内にオープンしたおっくんに、なぜお笑い芸人からYouTuberに転身したかをリモート取材した。
料理の原点は福岡での単身生活
まずはお笑い芸人になった理由からお話を伺った。
──小さい頃からお笑いが好きだったんですか?
おっくん:小学生の頃から、お楽しみ会でクラスの友達と漫才をやるぐらい、お笑いは好きでしたね。社会人になる前に、お笑いの養成所に入りたいと漠然と考えていたんですけど、気付いたら大学を卒業して、某企業に就職していました。
──就職を一度しているんですね。
おっくん:会社で法人営業をやっていたんですけど、配属されたのが福岡オフィスで、単身で行ったため、自分で料理をしなきゃいけなくなったんです。それが「おっくんの宅飲みグルメ」の原点ですね。
──どうして会社を辞めたんですか?
おっくん:仕事がきつかったのと、やっぱりお笑いをやりたい熱が高まってきて、24歳で会社を辞めて、NSC(吉本総合芸能学院)に入ったんです。それでお笑い芸人を目指しました。
── 一流企業を辞めてお笑い芸人を目指すのは、かなりのリスクだと思うんですが……。
おっくん:むしろ一回、社会人を経験していたからこそ、芸人でぽしゃったとしても何とかなるだろうという気持ちがありました。意外と僕みたいに会社を辞めて、二十代半ばでNSCに入ってくる生徒は珍しくなかったんです。
──NSCは十代の生徒が大半だと思っていました。
おっくん:昔は高校新卒とか、大学と並行して通う生徒が大半だったらしいんですけど、僕らの世代になると一度は安定を求めるのか、まず社会人になって、それでも夢を諦めきれずにNSCに入ってくる生徒が非常に多かったんです。それで1年間、NSCに通って漫才コンビを組んで、そのまま吉本所属になりました。
コンビの名前を売るためにYouTubeチャンネルを開設
──YouTubeを始めたきっかけは?
おっくん:相方がネタを書いていたので、少しでもコンビの名前を売るために自分は何ができるかを考えて、靴磨きの動画を始めたんです。NSCを卒業したのが2016年3月で、そのまま4月に芸人デビューしたんですけど、同じ年の11月に「靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』」を開設しました。
──どうして靴磨き動画を選んだんですか?
おっくん:副業でお金稼ぎをするのが好きで、アフィリエイトブログなんかもやってたんです。ダーツ、ドラムなど、趣味に関する内容だったんですけど、いろいろやる中で、靴磨き記事の検索流入が圧倒的に多かったんです。それを思い出してYouTubeを検索してみたら、靴磨きの動画がなかったので、これで勝負しようと思いました。
──視聴者の反応はいかがでしたか。
おっくん:わりと、すぐに反響がありましたね。3カ月でチャンネル登録者数が1000人を突破して、右肩上がりで再生回数も伸びていきました。
──靴磨き動画が順調な中、どうして新たに料理動画を始めようと思ったんですか?
おっくん:ちょうど靴磨き動画を始めた1年後の、2017年11月に「おっくんの宅飲みグルメ」を始めたんですけど、新しい視聴者層を発掘しなきゃいけないなと思ったんですよね。当時は料理系のチャンネルが少なかったんですけど、にもかかわらず料理動画の1本あたりの再生回数は多かったんです。だったら料理も好きだし、自分もやってみようと。
──料理動画と一口にいっても、ジャンルは多岐にわたりますよね。
おっくん:そうなんですよね。なので、どういう料理動画が伸びるのかリサーチしていたら、自作ラーメンを作る動画の再生回数が飛びぬけていたんですよ。中でもラーメン二郎の再現動画は、いろんな人が上げていて、チャンネル登録者数が少ないYouTuberでも再生回数がすごかったんです。それなのにラーメン専門で料理動画を作っている人がいなかったので、当初は毎週のように自作ラーメンの動画を上げていました。
──ラーメン動画中心だったのに、どうしてチャンネル名を「おっくんの宅飲みグルメ」にしたんですか?
おっくん:ラーメンばかりだとネタ切れになるので、宅飲みグルメという逃げ場を作ったんです(笑)。一方で、激辛だったり、大量にんにくだったり、脂ギトギトだったり、なかなか家庭で作る人がいない料理をエンターテインメントとして見せる動画も作りました。尖った料理ってヒットしやすいんですよ。
──先ほどからお話を聞いていると、リサーチを入念に行うんですね。
おっくん:学生時代はレポートを書くのが得意でしたし、リサーチが苦じゃないんですよね。ラーメン二郎の再現動画も、すぐには出さなかったんですよ。100%再生回数が伸びるって確証があったので、まずは違う自作ラーメン動画を次々と上げて、ラーメンを作るチャンネルなんだと認知させていったんです。そしてチャンネル登録者数が増えてきたところで、ラーメン二郎の再現動画を公開したら、戦略通りにバズりました。
▲2018年1月13日に公開した「家で作ったラーメン二郎が完全に神域ィ!!!【家二郎】」は、2020年6月時点で173万回再生
──再現レシピはどのように考えるんですか?
おっくん:さすがに自分の舌だけで再現するのは難しいんですが、ネットで検索すると、いろんな再現レシピが出てくるんです。その中から良さそうなものをピックアップして、実際に作って食べてみて、足りない食材を加えるなどして、徐々にオリジナルの再現レシピに仕上げていくんです。
──靴磨き動画を見て、「おっくんの宅飲みグルメ」に流れてくる視聴者も多かったんですか?
おっくん:それが視聴者層が違っていたんですよね。当時、靴磨き動画で1万5000人ぐらいチャンネル登録者数がいたんですけど、そこから流れてきたのは数百人程度でした。
自分の輝ける場所がYouTubeだった
おっくんがYouTubeチャンネルを開設した頃は、YouTubeをやっているお笑い芸人は皆無に等しく、好意的な見方をしてくれる芸人仲間も少なかった。
──チャンネル登録者数が急激に増えていく中、漫才コンビの相方の反応はいかがだったんですか?
おっくん:最初は悪くなかったです。そもそもコンビの知名度を上げるために始めたことですからね。ただYouTuberとして認知されていくと、僕のほうがお笑いの舞台でフィーチャーされることが増えたんです。元相方のほうが僕よりもお笑いの才能があったので、あんまり良い気分じゃないだろうなってオーラは感じていました。
最終的にデビューから2年が経って、元相方に「俺はもっとお笑いを真剣に考える奴と組みたい」と言われて解散しました。それを機に、僕は吉本のYouTube部門「OmO(オモ)」に移籍したんです。
──お笑い芸人に心残りはなかったんですか?
おっくん:NSCに入った時点で、こいつには絶対に勝てないなって同期がいました。そういう意識で漫才コンビをやっていましたし、笑いを取れていたのは、間違いなく自分の力ではなく、相方の力でした。なので常々、芸人としての限界は感じていたんです。だから未練はなかったですし、自分の輝く場所は他にあるだろうと。それがYouTubeだったんですよね。
──当時はお笑い芸人がYouTuberをやるのは珍しかったですけど、芸人仲間はどんな反応でしたか。
おっくん:「白い目で見る」とまでは言いませんが、靴磨き動画で毎回クリームの紹介をしていたので、「最近テレビショッピングやってるみたいだね」と揶揄されることもありました。でも徐々にお笑い芸人もYouTubeに参入するようになって、芸人仲間からYouTubeに関する相談を受けるようになりました。
自分のできる範囲内で楽しむ動画が共感を呼ぶ
──「おっくんの宅飲みグルメ」の視聴者層はどんな感じですか?
おっくん:18歳~25歳が約30%、26~35歳が約30%と、僕と同世代か若い人が多いですね。男女比率は8割5分で圧倒的に男性です。
──ラーメン二郎の再現動画に並ぶくらいバズった動画はありますか?
おっくん:2019年の年収が200万円だったんですけど、それをフックにして、週に一度の贅沢として、自分の収入の範囲内で晩酌を楽しむ動画を上げたら反応が良くて、こちらも100万再生回数を突破しました。
▲2019年6月22日に公開した「年収200万円 契約社員の週に1度の贅沢」は、2020年6月時点で131万回再生
──源泉徴収票まで公開してインパクトがありました。どうしてバズったと分析しますか?
おっくん:自分のできる範囲内で、自分なりの贅沢を楽しむ動画は再生回数が伸びやすいんですよね。
──予想以上に再生回数が伸びた動画はありますか?
おっくん:佐賀県に行ったときにビジネスホテルに泊まって、居酒屋に行くのではなく、近所のスーパーで買い物をして、地元ならではの食材を楽しむ動画を作ったんです。それが、めちゃめちゃヒットしました。特上寿司、ミンククジラの刺身、鶏のたたきを、あえてビジネスホテルという狭い空間で楽しむのがウケましたね。これも自分のできる範囲内で楽しむところが共感を生んだのかなと思います。
▲2019年8月29日に公開した「地方ビジネスホテルの楽しみ方【ナイトルーティン】」は、2020年6月時点で86万回再生
──動画タイトルのバリエーションが豊富でユニークですよね。
おっくん:サムネイルとタイトルは重要ですね。日ごろから、いろんなweb記事のタイトルや、YouTube動画のサムネイルとタイトルを流し見するんです。その中から自分の感性で見たい、読みたいと思ったものを分析して、どうして目を惹いたのかを紐解いていきます。それでタイトル、サムネイルの当て勘みたいなものはついたかなと思います。
単調になりがちな料理動画に彩りを添える努力
──動画作成で特に意識していることは何でしょうか?
おっくん:料理は作業なので、上手く編集しないと間延びするんです。たとえばネギを丸ごと1本切るところを、そのまま見せても飽きてしまいます。なので、最後だけ見せるとか、早回しにするとか、見やすくする編集にこだわっています。僕は料理系YouTuberとしては早いほうなんですけど、YouTuberとしては後発なので、編集では絶対に負けない気持ちでやっています。
──企画にもよると思いますが、映像素材は大体どれぐらいあるんですか?
おっくん:僕の動画は、撮影がめちゃめちゃ長くて、3時間ぐらいの素材を10分前後にギュッと詰め込むんです。完成形を想像しながら撮影をして、素材を全部見てから、600~700カットぐらいにまとめるので、かなり手間はかかっています。
▲基本的に企画・撮影・料理・編集を全て一人で行う
── 一番大変な作業は編集ですか?
おっくん:最近はレシピを考えるのも大変になってきましたが、圧倒的に編集がきついですね。
──外部に編集を頼もうと思わないんですか。
おっくん:頼んだこともあったんですけど、上がってくるものが自分の想定通りにならなくて……。結局、自分でやらないと納得できないんですよね。料理系の動画って普通に料理を作るだけになってしまいがちなので、少しでも賑やかしを入れようってことで、コント調にしたり、やかましい音楽を流したり、SEを付けてテロップを出したり。単調な料理動画に彩りを添える工夫は常にしています。
──週にどのぐらいの本数の動画を上げるようにしているんですか。
おっくん:週に最低でも2本、多いときは3本上げるようにしているんですけど、撮影に丸1日かかってしまうんです。編集も2日は必要ですし、靴磨きの実店舗の作業もあるので、それが限界ですね。
──お金の話もお聞きしたいんですが、どれぐらいのチャンネル登録者数で、YouTuberとして生活できるものなんですか?
おっくん:6~7万人になると、ある程度まとまったお金が手に入ります。ただチャンネル登録者数と再生回数に相関関係はないんですよね。結局は再生回数をどれだけ伸ばせるかなんです。一度バズって、チャンネル登録者数が増えても、その後の動画もバズらないと再生回数は減る一方なので、1本1本の動画でホームランを狙う気持ちで作っています。
──再生回数の平均目標はどの辺に設定しているんですか。
おっくん:10万再生回数を1つの目標にしています。それで時々、バスればいいかなと。まだ100万再生回数を超えた動画は2本しかないので、そこは課題ですね。
──コロナ禍で視聴者層の変化はありましたか。
おっくん:動画を参考に料理を作る視聴者が多くなったので、鶏ささみやもやしを使った一般の方でも作りやすいおつまみレシピを多くしました。コロナ以前は、そういう軽い動画だと、あまり再生回数は伸びなかったんですけど、コロナ以降は再生回数も伸びるようになりましたし、新規の視聴者も増えました。
▲2020年4月14日に公開した「大量のもやしで4品の簡単おつまみ作ってみた!」
▲2020年5月10日に公開した「鶏ささみの超カンタンおつまみ3品作ったら、ウマすぎた…!!」
──コロナ禍で収入面に影響はありましたか。
おっくん:総動画再生回数は上がったんですけど、4月から広告が付かなくなるケースが多くて、収入は半分ぐらいに落ちました。ただ、徐々に広告は戻ってくると思います。それよりも痛手だったのは、春にオープン予定だった靴磨き店「SHOEBOYS」のオープンが延期になったことですね。
──2020年3月に「OmO」を退所したのは、どういう理由からですか?
おっくん:僕は会社を法人化していて、「SHOEBOYS」開業にあたって従業員も雇っています。「OmO」に所属していると、YouTubeの広告収入の何割かをマネジメント費用として支払うので、月によっては赤字が出てしまうんです。なので退所させていただきました。
──どうして靴磨き店をやろうと思ったんですか?
おっくん:靴磨きは僕の原点ですし、この先YouTuberとして長くやっていけるかもわからないのでリスクヘッジという側面もあります。もちろん、この先もコンスタントに料理動画を上げていきますよ!
小学生の「なりたい職業ランキング」の上位に位置するなど、憧れの職業となったYouTuberだが、それだけに参入者も多く、職業として成立している者は、ほんの一握りに過ぎない。
YouTubeに参入するお笑い芸人も後を絶たないが、ちゃんと結果を残しているのは、ごく一部というのが現状だ。
そんな栄枯盛衰の激しい業界で、おっくんは料理系YouTuberとして第一線を走り続け、コンスタントにヒット動画を世に送り出している。
その背景には、入念なリサーチで世の中のニーズを読み取り、動画制作にこだわりぬくなど、たゆまぬ努力を惜しまない姿勢がある。
その妥協なきサービス精神に、お笑い芸人の性(さが)を感じた。
"料理する" - Google ニュース
July 20, 2020 at 05:30AM
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