2021年夏に行われた東京オリンピックで、前評判の高かった競泳日本代表はメダル3個に終わった。そのうち、日本の女子スイマーで史上初となる二つの金メダルを獲得し、競泳ニッポンの面目をかろうじて保った大橋悠依(ゆい)選手(27)=イトマン東進=は、不完全燃焼なのだという。
五輪2冠という偉業の先に、彼女は一体何を求めているのだろうか。
水泳世界選手権の観戦のお供になりそうな担当記者のイチオシ記事を、原則として連日午前6時に配信します。
第1回:井村雅代は怒らない 指導半世紀「シンクロの母」の新境地
第2回:五輪「水中の華」に男子解禁 癒やし系・佐藤陽太郎は隠し玉
第3回:水球選手は消防士 「めちゃくちゃ気持ちが強い」工藤恭子の日常
第4回:なぜ鳥取で飛び込み? 三上紗也可からさかのぼる3人のダイバー
第5回:玉井陸斗に五輪メダルを 一世一代、飛び込み馬淵家の大仕事
第6回:好事魔多し 「血が騒ぐ」瀬戸大也が見つけた新たなターゲット
第7回:日本女子初競泳五輪2冠 大橋悠依、152位でもやめない理由
第8回:東尋坊が練習場 競技のパイオニアとして 荒田恭兵選手(25日午前6時公開予定)
第9回:ライバル不在 金メダルに最も近い男 本多灯選手(26日午前6時公開予定)
第10回:コーチも驚きのマイペース 秘められた才能は? 三井愛梨選手(27日午前6時公開予定)
第11回:お家芸復活を託された元世界最速スイマー 渡辺一平選手(28日午前6時公開予定)
第12回:関係者から見た心の変化 池江璃花子選手(29日午前6時公開予定)
第13回:世界初挑戦 一流スイマーへの道 成田実生選手(30日午前6時公開予定)
※予定は変更する場合があります。
「家族や友達も来てくれるし、観客の方を近くに感じて応援の力を借りながらしっかり泳ぎたい」
会場となるマリンメッセ福岡に乗り込んだ大橋選手は、自国開催となる世界選手権の本番を前にしても緊張している様子はなく、リラックスした表情を浮かべた。
昨年の前回大会は個人メドレー2種目に出場したが「モチベーションが上がっていかないということを予測できなかった」と、400メートルは5位、200メートルは準決勝で敗退に終わった。今季は200メートルに専念したが、4月の日本選手権では新鋭の成田実生選手(16)=金町SC=に敗れるなど、全盛期の状態を取り戻せてはいない。
たとえ結果が出なくても彼女が現役を続けている理由を知りたくて、滋賀県彦根市に住む父・忍さんに話を聞いた。
「なぜ悠依さんは五輪後、結果が出なくても水泳を続けていると思いますか?」。すると、こんな答えが返ってきた。
「悠依は昔から水泳が好きやからね」
大橋選手には4学年上と3学年上の姉がいる。
地元のスイミングスクールに通っていた2人の姉のまねをするかのように、6歳で水泳を始めた。忍さんによると、3姉妹の中で最も体が弱く「小さい頃はしょっちゅう風邪をひいて、そのたびに病院に連れて行って鼻水を吸引してもらっていた」と振り返る。
それでも、上の2人が「水泳はコーチがきつい」と、いつしかピアノや勉強に専念する中で「私はスイミングに行く。しんどいけどやめへん。面白いからやめへん」と言い張った。小学3年で初出場した全国JOCジュニアオリンピックカップ(JO)の50メートル背泳ぎは152位。そう、小さい頃から大橋選手にとって水泳を続けるか続けないかの判断にレースの結果は関係ないのだ。
大橋選手が初めて日本代表入りしたのは大学4年生になってからだ。
忍さんは「小学校の時はオリンピック選手になるなんて思ってもいなかった。や…
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