来年パリ・オリンピックの前哨戦とも言える水泳の世界選手権を4日後に控えた19日。競泳男子の瀬戸大也選手（29）＝CHARIS＆Co.＝は航空機で福岡空港に降り立った。そしてその瞬間、こんな感情が湧き上がってきた。
「血が騒いでいる」
国際大会の本番直前にこんな感情になったのは4年ぶりだという。
水泳世界選手権の観戦のお供になりそうな担当記者のイチオシ記事を、原則として連日午前6時に配信します。
第1回:井村雅代は怒らない 指導半世紀「シンクロの母」の新境地
第2回:五輪「水中の華」に男子解禁 癒やし系・佐藤陽太郎は隠し玉
第3回:水球選手は消防士 「めちゃくちゃ気持ちが強い」工藤恭子の日常
第4回:なぜ鳥取で飛び込み？ 三上紗也可からさかのぼる3人のダイバー
第5回:玉井陸斗に五輪メダルを 一世一代、飛び込み馬淵家の大仕事
第6回:好事魔多し 「血が騒ぐ」瀬戸大也が見つけた新たなターゲット
第7回:水泳にこだわる理由 家族が見た娘の執念 大橋悠依選手（24日午前6時公開予定）
第8回:東尋坊が練習場 競技のパイオニアとして 荒田恭兵選手（25日午前6時公開予定）
第9回:ライバル不在 金メダルに最も近い男 本多灯選手（26日午前6時公開予定）
第10回:コーチも驚きのマイペース 秘められた才能は？ 三井愛梨選手（27日午前6時公開予定）
第11回:お家芸復活を託された元世界最速スイマー 渡辺一平選手（28日午前6時公開予定）
第12回:関係者から見た心の変化 池江璃花子選手（29日午前6時公開予定）
第13回:世界初挑戦 一流スイマーへの道 成田実生選手（30日午前6時公開予定）
※予定は変更する場合があります。
2019年世界選手権で韓国・光州に降り立った時も「準備ができていてワクワクが大きかった」と感じた。その大会で個人メドレー2冠を果たし、東京五輪代表の座をつかんだ。
周囲からは「金メダル確実」と言われたが、まさに「好事魔多し」だった。
新型コロナウイルスの感染拡大による五輪の1年延期により自らのモチベーションが低下し、そして不倫問題を引き起こして活動停止処分を受けた。急ピッチで調整した東京五輪はメダルゼロで終わり、人生の厳しさを身に染みて思い知らされた。
東京五輪の時のコーチは高校時代の同級生。気心の知れた仲で、今思えば甘さがあったのかもしれない。徹底的にもう一度自らを追い込むべく、厳しい指導で知られるコーチに弟子入りした。女子平泳ぎの金藤理絵さんを16年リオデジャネイロ五輪で金メダルに導いた加藤健志（つよし）さん（57）だ。
そこからは地獄の日々が待っていた。弟子入りしてすぐの昨年1月、あまりの練習の厳しさに「加藤コーチについてくのは10年かかります」と弱音を吐いてしまった。
その時、コーチから言われた言葉は「もうお前は水泳やめていいよ」だった。
瀬戸選手の感情は揺さぶられたが、世界の頂点を一度は極めた自分に対し、本音でぶつかってくれるコーチは他にいないとも感じた。
「やっぱり最後までやり切って、金（メダル）取りたいです」と電話した。当然、翻意してくれると思った。しかし、返ってきた言葉に、耳を疑った。
「今のままでは無理。全く新しい瀬戸大也にならなきゃ」
昨年6月の世界選手権（ハンガリー・ブダペスト）に、加藤コーチは同行していなかった。400メートル個人メドレーで6位に終わった後、テレビ電話がかかってきた。
「お前な。どうして負のスイッチ入れたの？ お前そんなもんじゃないだろ。お前、2日後に絶対何が何でも銅（メダル）取らないと、俺はコーチやらないよ」
そう活を入れられた瀬戸選手は2日後の200メートル個人メドレーで銅メダルを獲得した。
厳しい練習…
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