世界各国を見渡せば、料理のうまい国がある。中東に限って言うなら、シリアやレバノン、モロッコ、チュニジア、アルジェリアはうまい料理が多い。共通するのはフランスによる支配の歴史があることだ。その間に食文化が入り込み、土着の料理や食材と結びついて豊かな味わいを生み出している。アルジェリアは、訪れるたびに食の喜びを味わわせてくれる国の一つである。ここには、なぜか中華料理と見た目もそっくりの「海鮮春巻き」が存在した。
過酷な歴史で今も混迷
フランスはアルジェリアの食文化を豊かにした一方、その植民地支配は深い傷跡を残した。独立をめぐりアルジェリアは、1954年から8年にわたって宗主国のフランスと戦った。62年の独立後もしこりが残り、2003年になってやっとシラク大統領(当時)が仏元首として初めて訪問したほどだ。フランスはベトナムやモロッコ、チュニジアなどの独立を認めたのに対し、アルジェリアはなかなか手放さなかった。石油や天然ガス、鉄鉱石などの天然資源も豊富で、フランスにとって地中海を挟んだ裏庭的なアルジェリアは、英国におけるインドのような存在だった。
独立を達成したアルジェリアだが、フランス統治時代の残滓によって混乱は尾を引いた。植民地支配層と一般民衆の対立構造が残存し、権力は軍や官僚、財界重鎮に集中して富が偏在した。そうした矛盾が吹き出したのが1991〜2002年まで続いたアルジェリア内戦だった。内戦は政府軍の勝利によって幕を降ろしたものの、重苦しい政治構造はアルジェリアに残り、「アラブの春」の第2幕と言えるような民衆の抗議行動が今も続いている。
街並みや料理にフランスの影響が
首都アルジェの街を歩くと、欧州に来たような錯覚を覚える。フランス植民地時代の名残をとどめた街並みのせいだろう。地中海に面したアルジェは、気候的にもアラビア半島に位置する湾岸諸国やエジプトなどとは違って、爽やかな海風が吹いている。冬季には山岳部を中心に結構な積雪もある。アラビア語が公用語だが、人々の日常会話は方言がきつく、フランス語の単語も混じっていて、同じアラビア語圏に住むエジプト人が意思疎通に苦労する。あらゆる面でフランスの影がちらつく。
食文化は、オスマン帝国統治やフランス、地中海を挟んだスペインの影響も受け、トルコ系の料理や、トマトや玉ねぎを使った冷製スープのガスパチョなど多様性に満ちている。国境を越えた人々の往来は今も活発で、フランスには多くのアルジェリア系移民が存在する。
スペインを旅した際、フランス生まれのアルジェリア系移民第2世代に当たる男性に出会った。料理を得意とする男性は、アルジェリアやフランス、スペインのエッセンスを絶妙に調和させたフュージョン料理でもてなしてくれた。
店自慢のミックス・スパイス
アルジェリアでは前菜にスープが出ることが多く、男性のコース料理も得意のスープで始まった。台所にお邪魔すると、まず目に飛び込んできたのが多くのスパイスが並んだ戸棚。スパイスを多用するのは、アルジェリアなどの中東料理に共通する。男性が自慢げに見せてくれたのがアラビア語で「ラース・アル・ハヌート」と呼ばれるミックス・スパイス。直訳すると、「お店の頭」というもので、スパイス専門店が誇る最高のスパイスを調合したもの。店によって異なるが、クミンやクローブ、カルダモン、ナツメグ、ショウガ、コリアンダー、チリペッパー、パプリカなど様々なスパイスが使われる。
骨付きのラム肉で取った出汁にトマトや玉ねぎ、ジャガイモ、さらにラース・アル・ハヌートで香り付けしたスープは、コクと香りが重層的なハーモニーを醸し出していた。このスパイス使いは、「さすがアルジェリア」と唸ってしまった。メインは、マハシと呼ばれる中東で一般的な詰め物料理。だが、ここはちょっとアレンジして、真っ赤なパプリカにカタクチイワシのすり身を詰め、スペインでよく使われる燻製パプリカ粉をメインとしたソースに絡めた。フランスに渡ったアルジェリア移民の家庭で育ち、スペインの美食に日常的に触れている男性。恐るべし。
海鮮春巻きの正体は
アルジェリアの多くの街は、地中海に近く、首都アルジェでは、イワシの唐揚げを専門とする軽食屋に通い詰めた。エジプトなど他の中東諸国では、クミンなどのスパイスにまぶしてシンプルに揚げるのが一般的だが、この店では、秘伝というスパイスが入った赤っぽいエキスに漬け込んでいた。山盛りのイワシの唐揚げと食べ放題のフランスパン。このスパイスの中身を店員に聞いてみたものの、「秘密」と言われて、はぐらかされてしまった。
毎日イワシの唐揚げでは飽きてくる。海沿いの小洒落た海鮮レストランに入ってみた。そこで出会ったのが「海鮮春巻き」である。中東ではブレクやボレクと呼ばれるれっきとした中東料理。版図を広げたオスマン帝国時代に広まった料理といわれ、バルカン半島諸国やアルメニア、アゼルバイジャンなどにもあるパイに似た料理。オスマン帝国時代の宮廷料理が発祥との説が有力であるほか、中央アジアでも歴史的に食べられていたとの説もある。フィロシートと呼ばれる薄い生地に肉やチーズなどを詰めてオーブンで焼いたり、ロール状にして揚げたりする。トルコやレバノン、エジプトなどでは、チーズ入りのシンプルなものを食べる機会が多く、中東の空を飛ぶ国際線の機内食にもよく登場する。
アルジェリアの海鮮レストランで食べたのは、このブレクをアレンジしたもの。フランスの影響を受けたアルジェリアらしく、クリームソースにマッシュポテト、チーズ、それにエビやホタテのような貝柱とリッチな具材を、春巻きの皮のようなフィロシートで包んで油で揚げる。サックとした皮の中は、エビや貝のエキスが染み込んだ熱々のクリームで満ちている。塩胡椒だけの味付けで、スパイスは使っていないようだった。素材を味わうためには、スパイスは不要というわけだ。
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November 21, 2020 at 10:00AM
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これぞ文化の融合! アルジェリアで出会った絶品海鮮春巻き:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+
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