2020年08月08日12時00分
映画「もったいないキッチン」は“食材救出人”を自称し、世界の食品廃棄問題を追い続けるジャーナリストで環境活動家、映像作家のダーヴィド・グロスが世に問う新作。世界でもワーストクラスとされる日本のフードロスの実態に迫りながら、その打開策を探るドキュメンタリーだ
前作「0円キッチン」のキャンペーンで来日した際に日本の「もったいない精神」に触れ、そのユニークさと多様性のある意味に魅せられたというグロスが、福島から鹿児島まで各地を旅して、持続可能な未来の在り方を追求する。「取材の旅を通して、さまざまなサプライズがあった」というグロス監督に聞いた。
過去8年間にわたり、世界を回り各国の食料廃棄問題を取材してきたグロス監督。「今は問題ではなく、解決方法に目を向けている」と言い、今作でもフードロスの実態以上に、「もったいない精神」を体現する人々のポジティブな取り組みに、より強くスポットを当てる。
取材先は、食品ロスの象徴とも言えるコンビニエンスストアから、食品リサイクル工場、規格外の野菜を使ったパーティーを開く人々、野草料理の専門家、地熱を料理作りに生かす町、上質な鰹節(かつおぶし)を作るためにモーツァルトの音楽を利用する取り組みまで多岐にわたる。
「さまざまな人の紹介や提案を受けて取材相手を人選できた。まるで食材を集めるように彼らの話を聞き、その内容を一つに煮込むことで今作が完成した」という。
映画は食品ロスを起点にしながら、エネルギーや環境、さらには貧困問題にも踏み込み、日本の社会が直面する課題を浮き彫りにする。「より広い視野を持って取材に当たろうと思った。今作で提示された問題は別々のものではなく、全てが根底でつながっている」
深刻な問題を扱いながら、映画のタッチはポップで明るい。それはコンビニチェーンの役員も含め、どんな取材対象に対してもあけっぴろげに接するグロス監督の姿勢が関係しているようにも思える。監督がコンビニチェーン関係者を前に突飛な行動を取って相手があっけに取られる場面は殊に印象的。普通であれば険悪なムードに陥っても不思議ではないシチュエーションでありながら、そこには不思議なユーモアすら漂う。
「企業の代表者が僕のような環境活動家を笑顔で迎え入れてくれたのには、良い意味で驚いた。ヨーロッパではなかなかないことだ。こちらの質問に対しても、紋切り型の返事ではなく、きちんと考えて自分の言葉で語ってくれた」とグロス監督。単純に企業を悪役視しない柔軟な視点が作品をより豊かなものにしている。
◇映画は「世界を変えるための手段」
オーストリア出身で、米国でフリーガン(廃棄物を回収して再利用する人々)を扱った映画を見て、フードロス問題に興味を持った。「帰国後、ザルツブルグの家の近所にあるスーパーの裏にある大きなごみ箱をのぞいたら、まだ食べられる野菜やパン、果物などが大量に捨てられていた。『こんなことは許されるべきではない』と強い怒りを感じました」
そこで思いついたのが、フリーランスのテレビジャーナリストとして活動してきた経歴と、自身の料理好きを生かしてこの問題を訴える作品を作ることだった。ごみ箱から“救出”した食品を自ら料理する番組をユーチューブで流したところ評判を呼び、長編ドキュメンタリー映画「0円キッチン」(2015年)の発表につながった。
映画作りを「世界を変えるための手段」と考えているが、作品を通して権威めいた結論を押し付ける気はない。「今作ではさまざまな議論が交わされるが、私自身がそのことに対する答えを持っているわけではない。何が大切で何を選択すべきかは、観客の皆さんに考えてほしい。すべての意見を尊重して、皆さんなりの結論を出してもらえれば」
取材を通じて、自身が学んだことも多かったという。特に取材に同行し、通訳を務めた塚本ニキから聞いた「万物に命が宿る」いう日本人の自然観、宗教観には大きく心を動かされた。「最初に聞いたときは、単に『いい考えだな』と思っていただけだったが、取材を進めるにつれて、この思想を自分の活動に生かしている人がたくさんいることを知った。頭だけで理解していた概念が、徐々に自分の心に響いてくるのを感じました」
今後も映画というツールを武器に、食品の廃棄問題を訴え続けたいという。次は、世界一のフードロス大国とされる米国の現状に切り込みたいと考えている。「ゆくゆくは、食べ物と世界平和のつながりについても考えてみたい」と今後のビジョンを語ってくれた。
「もったいないキッチン」は8月8日から全国順次公開 。(時事通信社編集委員・小菅昭彦)
ダーヴィド・グロス(David Gross)=1978年、オーストリア生まれ、ごみ箱に捨てられていた食材を料理して無料で提供する「0円キッチン」プロジェクトを展開する。
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August 08, 2020 at 10:00AM
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