新型ホンダ『フィット』のインテリアデザインはエクステリアと同様大幅に変更された。そのコンセプトはアイランドキッチンだという。なぜ大幅に変更され、そのコンセプトが採用されたのか。デザイナーに話を聞いた。
4代目は原点回帰
「初代と2代目、そしてこの4代目では(コンセプトも含めて)そう大きな違いはない」と話すのは本田技術研究所オートモービルセンターデザイン室プロダクトデザインスタジオ主任研究員デザイナーの森康太郎さんだ。その理由は、「フィットはもともと幅広いお客様のニーズに応える、日常の足になるようなクルマとして常に開発がスタートしているからだ」という。
一方3代目は同時期にデビューした『N-BOX』があり、「そのクルマとお客様の層が非常に近かったので、N-BOXと食い合わないように、また初代、2代目と続いたお客様をより若返らせたいという2つの考えからかなりスポーティな方向に振った。その結果としてエクステリアはエッジの効いたデザインで、内装もどちらかというとスポーティなコクピットスタイルになった」と説明する。
そして4代目となる新型は、「非常におおらかな形なので、3代目とは大きく違っているだろう。フィットは日常の使い勝手が良く、楽しくて色々なお客様に愛されるようなクルマ。そこに原点回帰したので、(3代目からは)大きく変わったのだ」と述べた。
本当に欲しいのは心地よさ
スポーティから原点回帰したのはなぜか。森さんは、開発初期の主査からの発言がきっかけだったと振り返る。それは「皆、スポーツや未来感など本当に欲しいと思っているのか」というものだった。そこでそれぞれ考えてみると、「本当に欲しいのは、心地いいとか癒しとかそういうものを何となく求めていた」と気づいた。
同時にホンダ社内で人研究を行っており、そこからも同じような言葉が出たこともあり、「周りも開発している人間もみんな同じように心地よくなりたいと思っていた。そうであればリアルに欲しいクルマを作ろうということで今回の心地いいコンセプトに繋がった」と説明する。
そして、「フィットは毎日使うクルマであり、週末のワインディングを攻めた時に気持ち良い、快感というクルマとは違う。コンビニや買い物などの日常で、例えば駐車場に入って乗り降りする時に、何気なく乗り降りが出来ること、そういうちょっとした日常の楽しさや気持ち良さがフィットだろう。週末の非日常ではなく、毎日の心地よさを追求しようと皆のベクトルが揃った」とのことだった。
心地よさでは所作が重要
“心地よさ”をカテゴライズすると感性価値の範疇になり、これまでフィットが追求して来た機能性価値とは大きく方向が変わった。その点について森さんは、「今回のグランドコンセプトは“用の美・スモール”だ。私自身、インテリアをずっとデザインしてきた中でいうと、ティッシュ箱が入ることも大事だが、それを扱う時の仕草や人の動きが美しくあってほしい」という。
「グローブボックスを開ける時に屈んで苦労しながら使うよりは、気持ち良い姿勢でそっと開けられる方がいいのではないか。女性がお化粧を直す時のバニティミラーの操作も、覗き込むよりはすっと見て使える方がいいだろう」と述べ、「そういうところをインテリアデザイナーとして気にしていたので、今回用の美というコンセプトになった時に、これはまさしく感性価値、自分としてやりたかったものだと思った」と大いに共感したとのことだ。
実際に、「センターコンソールもバッグをきれいに置いて女性が変な姿勢にならずに気持ち良く扱えるよう、感性価値として自分がやりたかったことがすんなりとデザイン出来た」とした。
使い勝手ありきでデザイン
さて、フィットのインテリアをデザインするにあたり、感性価値として新たに取り組んだものと同時に、これまでの反省点も込められている。
その点について森さんは、「先代はスポーティという言葉に引っ張られた感じで、どちらかというと欧州のスポーツカーを意識したとても分かりやすいイメージだった」と述べるが、「デザインを描いていく時に、絵の中だけでそのイメージが完結してしまい、そこに機能、例えばカップホルダーやグローブボックスなどを配置しようとすると、すでにデザインが出来上がってしまっているので機能を阻害するような造形に陥りがちだった」。
つまり、「カップホルダーなどは扱いやすい位置にあった方がいいということではなく、このようなスポーティなコックピットの絵があるからこれを生かすという考えになってしまい、若干使い勝手という観点そこを見失っていた」とコメント。
そこで今回は、「まずは使い勝手ありきでやろう。カップホルダーの位置はこうあるべき、収納はこうと進めた」。
また、「視界も細いピラーでかなり良い視界を確保しているので、これを最大限生かすためにインパネの造形はどうあるべきかを考えた」という。その結果、インパネはフラットな面を強調。森さんによると、「造形もさることながら視界を良くするために我々が一番ポイントを置いたのが、形よりも反射だ」という。「造形が複雑になればなるほどエッジ部分などが光って反射し、かつその下に影が出来るので、形以上に目に入るノイズが多くなってしまうことから、そういった反射をいかに減らすにはどうしたらいいか。
その結果、ほとんど平面なインパネとなった」と説明。また、「尖った面もクレイモデルの時点で太陽光の下で、微妙なカーブが尖った光にならないようになど注意した。そのうえで機能面を踏まえつつ、ホンダのテイストを入れたデザインにした」と述べた。
そのホンダテイストとは、「もともとホンダは、日常の使い勝手が気持ち良いようなインテリアを作ろうとしてきた。それは「Nシリーズ」を始め、「ワンダーシビック」や初代『シビック』、『アコード』などホンダは使い勝手を追及して来ている。これらは機能美からも来ており決して新しい考えではなく、脈々と繋がっているDNAなのだ。つまり改めて振り返ったところで何も変わっていない。ではここをもう一度ぶれないように進めることになった」と原点回帰がここでも行われたことを述べた。
会話が弾むアイランドキッチン
さて、フィットのインテリアのデザインコンセプトを森さんに問うてみよう。「それはアイランドキッチンだ」という。
「従来のキッチンはお母さんの仕事場。お父さんと子供はそれぞれの部屋かリビングなど、皆がバラバラにいる」と現状を説明。しかし、今回目指しているのは、「日常でみんなが笑顔になれるような空間を作りたかった。その時にイメージしたのかアイランドキッチンだった」という。
アイランドキッチンは、「お母さんが子供達やお父さんと顔を合わせて会話しながらキッチンで作業が出来る。つまりアイランドキッチンはリビングと繋がっているので、会話が生まれるような場になる」とその光景を話す。
さらにアイランドキッチンのレイアウトは、「お母さんが立った状態で楽に扱えるように、例えば調味料や道具類が使いやすいようにレイアウトされているので、今回のフィットの世界観に通じるものがある。なおかつ毎日使うものとして考えても、毎日の日常が楽しく気分が明るくなるような空間と合致していた」と、アイランドキッチンがまさにフィットのコンセプトそのものだったのだ。またこのアイランドキッチンの写真を見せることで、「デザイナーもモデラーもそういうことかとベクトルを合わせやすかった」とも語る。
ライフスタイルに合わせたグレード展開
さて、フィットにはHOMEを中心に5つのグレードが展開されている。そのそれぞれについて森さんに説明してもらった。「BASICグレードに対し、より質感を高めたのがHOME、その上にLUXEがある。フィットは若者が乗ると同時に、お子様が大きくなって夫婦二人に戻った時に乗るクルマでもある。そこで今までそれなりのいいクルマに乗っていたお客様が、上質な空間を維持したままコンパクトに戻れるようにLUXEを設定。アコードや『オデッセイ』クラスに見劣りしないよう、革内装とブラウンの落ち着いた空間とした」と森さん。
NESSは、「都心でフィットネスクラブや皇居の周りを軽くランニングをするなど、本格的なスポーツではなくライトにスポーツを楽しみたい女性に乗ってほしいイメージ」という。「ウエアや靴にもあるような撥水性でペールカラーの差し色が入ったインテリアにしている」。
CROSSTARは、「設備の整ったところでアウトドアレジャー、キャンプを気楽に体験したい、初めてアウトドアを楽しみたい、そういった方に向けて、アウトドア風のエクステリアを演出。内装はがちがちの道具感ではなく、NESSとCROSSTARでの大きな違いは色だけ」とし、「たまたまそれが気楽にアウトドアに行くか、気楽にフィットナスなどのスポーツを楽しむかの違い。同じライトだが少し違うイメージ」とした。
これらの方向性について森さんは、営業部門からの意見もあったという。「SUVのようなアクティブなテイストのグレードが欲しい。それから汗臭いガチのスポーツタイプのものではなく、もう少しライトなスポーティグレードを展開出来るような世界観はないか、ということからこの構成が生まれた」と話す。
またネーミングについても、通常はアルファベットなどで表記していた。しかし、それでは分かりにくく、かつ、装備表などを読み解いて差異を確認しなければならなかった。そこで、「研究所からの提案で、ライフスタイルの狙いが明快であるならば、そのものズバリでグレードに名前をつけてしまおう」とその背景を明かし、より分かりやすさと、楽しく自分のライフスタイルに合ったグレード選択が出来るようにしたことを語った。
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April 02, 2020 at 10:30AM
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