フルモデルチェンジした本田技研工業「フィット」は“心地よさ”をキーワードとして開発された。そのうえでインテリアのデザインコンセプトはアイランドキッチンだという。そこで心地よさに込めた想いやデザインコンセプトについて、新型フィットのインテリアデザイナーを務める本田技術研究所オートモービルセンターデザイン室プロダクトデザインスタジオ主任研究員デザイナーの森康太郎氏に話を聞いてみた。
原点回帰となった4代目フィット
──新型フィットはエクステリアとともに、インテリアも大幅に変更されました。なぜ今回ここまで変えることになったのでしょうか?
森氏:先代からデザインが大きく変わっているのは確かです。しかし、フィットを振り返ってみると、初代と2代目、そして今回の4代目フィットはそう大きな違いはないと思います。
その理由ですが、フィットはもともと幅広いお客さまのニーズに応える、日常の足になるようなクルマであるということで開発がスタートしています。しかし、3代目は同時期にデビューしたN-BOXがあり、そのクルマとお客さまの層が非常に近かった。そこで3代目を開発する際に、「N-BOXと食い合わないように」「初代と2代目と続いたお客さまを、より若返らせたい」という2つの考えから、3代目はかなりスポーティな方向に振ったのです。その結果、エクステリアはエッジの効いたデザインとなり、内装もどちらかというとスポーティなコクピットスタイルになりました。
それに対して4代目は非常におおらかな形ですから、かなり大きな差が出ていると思います。もともとフィットは日常の使い勝手がよく、楽しくていろいろなお客さまに愛されるようなクルマですから、今回のデザインでは、いわば原点回帰したということなのです。
本当に欲しいのは心地よさ
──なぜ4代目は原点回帰し、心地よいことをテーマにしたのでしょうか?
森氏:開発の当初に開発主査から「腹を割って話そう」ということになりまして、スポーツとか、未来感とか、本当にそれが欲しいと思っているのか? というひと言がありました。その時にわれわれが本当に欲しいのは「心地いい」とか「癒し」とか、そういうのを何となく求めていたことに気付いたのです。
また、ホンダでは人研究を行なっており、そこからもそのような言葉が聞かれてきましたので、まわりも開発している人間もみんな同じように「心地よくなりたい」と思っていたのです。そうであればリアルに欲しいクルマを作ろうということで、今回の心地いいコンセプトに繋がったのです。
──心地よさはいろいろな方向性があると思います。例えば加速の気持ちよさ、乗り心地などさまざまです。それをデザインとしてまとめていくときに一番気をつけたこと、考えたことは何でしょう。?
森氏:フィットは毎日使うクルマですから、週末のワインディングを攻めた時に「気持ちいい! 快感!」というクルマとは違います。コンビニに行って帰ってくるとか、買い物に行くとかです。例えば、日常の街中を走ってコンビニの駐車場に入り、何気ない乗り降りとか、そういう「ちょっとした日常の楽しさや気持ちよさみたいなことがフィットの心地よさだろう」というのがワイガヤ(ホンダの中で自由に意見を出し合えるミーティングの愛称)の中で出ました。そこでみんな「フィットはそうだよね」ということで日常毎日の心地よさを追求しよう、週末の非日常ではなくということでみんなのベクトルが揃ったのです。
自分でもやりたかった感性価値
──今回「機能価値」から「感性価値」に大きくシフトしたのですが、それについて森さんは最初にどう思いましたか?
森氏:今回のコンセプトの1つとして“用の美”というものがあります。私自身、インテリアデザインをずっとやってきた個人的な思いからいいますと、もちろんティッシュ箱が入ることなども大事ですが、それを扱う時の仕草や人の動きが美しくあってほしいという気持ちがありました。
例えば、グローブボックスを屈んで苦労しながら開けるよりは、気持ちいい姿勢でそっと開けられるほうがいい。女性がお化粧を直す時にバニティミラーを操作するときも、覗き込むよりはすっと見て使える方がいいだろうなど、インテリアデザイナーとして昔から気にしていましたので、今回の用の美というコンセプトは、まさしく感性価値だ思い、自分としてやりたかったものでした。
今回採用したセンターコンソールもそういう意味では、バックをきれいに置いて、女性が変な姿勢にならずに気持ちよく扱えるような観点もあり、そういった意味では感性価値として自分がやりたかったことだとすんなりとデザインできました。
スポーティに引っ張られた先代
──今回インテリアをデザインするにあたり、フィットとして取り入れていく感性価値と同時に、先代フィットユーザーの声を反映したところもあったかと思います。それはどういったところでしょうか。
森氏:反省点としては、先代はスポーティという言葉に引っ張られた感じで、どちらかというと欧州のスポーツカーを意識したイメージでとても分かりやすくはありました。そうしたデザインを描いていくときに、どうしても絵の中だけで完結してしまい、例えばいざそこにカップホルダーやグローブボックスなどのさまざまな機能を織り込もうとしても、すでにデザインができ上がってしまっているので機能を阻害するような造形に陥りがちだったのです。本来カップホルダーをよい位置にあった方がいいだろうと設置するのではなく、このようなスポーティなコックピットの絵があるからこれを生かすのだというところがあり、若干使い勝手という観点でそこを見失っていたと感じていました。
そこで新型ではまずは使い勝手ありきでやろうと、カップホルダーの位置はこうあるべき、収納はこう、視界も細いピラーでこれだけよい視界があるのだから、この視界のよさを最大限活かすためにはインパネの造形はどうあるべきかなどを考えました。
そのインパネの造形では、今回はすごくフラットな面が出ています。これは、造形もさることながら視界をよくするために最もわれわれがポイントを置いたのが、形よりも反射なのです。造形が複雑になればなるほどエッジ部分が光り反射し、その下に影が出来るなど、形以上に目に入るノイズが多くなってしまうのです。そこで目に入る反射を減らすためにはどうしたらいいかということで出てきたのが、まっ平らな、ほとんど平面なインパネだったのです。尖った面もクレイモデルの時点で太陽光の下で見て微妙なカーブが尖った光にならないようになど注意し、機能面を踏まえながら、そしてそこにホンダのテイストを入れたデザインにしていきました。つまり順番がこれまでとは逆になっているのです。
──今お話に出た「ホンダのデザインテイスト」とは、どんなものなのでしょう?
森氏:(しばらく考えて)そもそもホンダは、日常の使い勝手が気持ちいいようなインテリアを作ろうとしてきました。Nシリーズをはじめ、過去、ワンダーシビックや初代シビック、アコードなどなど、ホンダは使い勝手を突き詰めてきました。その結果、機能美に繋がっており決して新しい考えではなく、脈々とつながってきたDNAなのです。そこから改めて振り返ると何も変わっていません。「ではここをもう一度ぶれないように新型フィットでも進んで行こうよ」ということになりました。そこで、今回フィットで改めてデザインのテイストを決めようとしていた時に、“日常の心地いい生活空間”という言葉と新型フィットがまさに合致していたのです。
インテリアのコンセプトはアイランドキッチン
──さて、新型フィットのインテリアのデザインコンセプトはどういうものですか?
森氏:“アイランドキッチン”です。従来のキッチンはお母さんの仕事場で、お父さんと子供はそれぞれの部屋か、あるいはリビングにいてみんなそれぞれがバラバラでした。今回われわれが目指したのは、日常の中でみんなが笑顔になれるような空間を作りたかったので、その時にイメージしたのがアイランドキッチンだったのです。
アイランドキッチンはお母さんが仕事をする場ではありますが、子供たちと顔を合わせながらキッチンで作業ができます。当然お父さんとも同じで、アイランドキッチンはリビングと繋がっているイメージです。従来お母さんがポツンと1人で仕事をしていたところから、会話が生まれるような場に変わることになります。さらにアイランドキッチンのレイアウトは、お母さんが立った状態で楽に扱える色々なシステムがあり、調味料や道具類が使いやすいようにレイアウトされていますので、そういった意味でも今回のフィットの世界感に通じるものがあります。なおかつ毎日の日常が楽しく、気分が明るくなるような空間というのと合致していたのです。
──アイランドキッチンとして一番表現できているインテリアはどこでしょうか。
森氏:センターコンソールを中心としてフロント席とリア席とで会話ができるような明るい空間。内装色の白もそうです。
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March 31, 2020 at 07:00AM
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【インタビュー】新型「フィット」のインテリアが“アイランドキッチン”とは? デザインスタジオ主任の森康太郎氏を直撃 - Car Watch
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